2016年12月20日

Raspberry Piカメラ用ケースの作成 -第3回:設計と製作

はじめに

今回はカメラケースの3Dモデルを設計し製作した過程を説明します。説明内容は作成するために試行錯誤したことが主ですので、特にこれといったまとめとか結論とかはないです。私が試行錯誤した点などを参考にしていただけたら幸いです。
 

目次

 

1. 概要

図1と図2がカメラケースの3Dモデルです。図2にはそれぞれの箇所に名前を付けています。(各名称は私がそう呼んでいるだけなので、一般的な名称と違うかも知れません)
 
2016-12-20.png
図1 カメラケースの3Dモデルその1
 
dec20_カメラケース.png
図2 カメラケースの3Dモデルその2
 
それぞれの箇所には目的があり、目的と箇所をまとめたのが以下の表です。
 
表1 設計の目的と箇所
目的 箇所 試行錯誤したこと
カメラの固定 レンズ穴、ねじ穴 設計と実物のずれの調整、上下での寸法のずれ
ケースの固定 バンパー 固定方法の検討、上下での寸法のずれ
材料の削減 開口部 開口部の大きさ
反り対策 ブリム ブリムの厚み
 
次からそれぞれの目的について説明します。
 

2. カメラの固定

カメラの固定にはネジとナットを使っています。
P2280859-2.jpg
図3 カメラケース表
 
P2280860-2.jpg
図4 カメラケース裏
 
ケースのねじ穴やレンズ穴の位置がカメラと一致するように設計しないといけません。それぞれの穴の位置はカメラの図面を参考にしました。(Raspberry Pi Camera Module)
ただし、カメラのレンズ部分が傾いているせいか、図面の寸法通りの位置にするとカメラの中央が若干ずれました。そのため、図面の寸法から上図の下方向へ0.5mmほどレンズ穴をずらしています。
 
レンズ穴とねじ穴は2つの図形を組み合わせています。レンズ穴は大小の円、ねじ穴は六角形と円です。
下側の小さい円の穴はケースを貫通(h=3.8mm)させ、上側の大きい円や六角形の穴はレンズフィルタやナットの高さとほぼ同じ(h=2.0mm)にしています。
 
2016-12-20 (2).png
図5 レンズ穴とねじ穴の拡大
 
それぞれの穴を作る上で苦労したのが、実際に造形すると設計と実物で寸法がずれることです。さらに寸法のずれは造形物の上下で異なります
 
下図は3Dプリンターで造形したスペーサーです。設計上はまっすぐな円筒なのですが、下部の方が広がっています。おそらくですが、3Dプリンターは1層1層重ねて造形するため、下部は重みによって潰れて広がるのだと思います。
 
DSC04578.jpg
図6 スペーサー(下部の方が広がっている)
 
そのため、下側の穴は実際の寸法より1mm程度大きくして設計しています。これで実際に造形したらちょうどよい大きさとなりました。
一方上の穴は設計と実物のずれがほぼありませんでした。ですので、実際の寸法通りの値で設計しました。
 

3. ケースの固定

第1回でも説明したとおり、元々はただはめるだけで固定できるようなケースを作るつもりでした。そのための工夫がバンパーです。
理想としてはカメラケース全体の大きさが公式ケースの開口部より若干大きくなる程度に作り、このバンパーに弾力を持たせてカメラケースと公式ケースを押さえつけることで固定するつもりでした。
ですが、先ほど述べたような下の方が潰れて広がるなどカメラケースの寸法がうまく調整できず、さらにバンパーの大きさが小さくあまり弾力もなかったため、この方法は上手くいきませんでした
 
ただ、実際に作って思ったのですが、仮にケースの寸法やバンパーの弾力がちょうど良くなるように作れたとしても、この方法ではしっかりと固定できない気がしています。
カメラみたいにねじやナットを使ってケースと固定するように作れば良かったなと思っています。
 

4. 材料の削減

開口部は体積を減らすために作成しました。またRaspberry Piはそこそこ発熱するので、放熱効果も期待しています。
3Dプリンターは材料を重ねて造形しますので、体積を減らせば必要な材料や造形時間を減らすことが出来ます。材料や時間を減らすことでコストカットにもなりますし、試行錯誤の回数を増やすこともできます。
とはいえ、あまりにも開口部を大きくすると造形物の強度やケースの保護の観点から問題があるので、以下の基準を満たすように作成しました。
  • 造形物の各縁は5mm以上間隔をあける
  • 開口部の幅は10mm以内に抑える
  • 開口部の骨組みは1mm
 
dec20_カメラケースの固定.png
図7 開口部の設計基準
 
スライサーでSTLファイルをGコードへ変換する際に造形に必要な材料や造形時間を見積もることが出来ます。開口部の有無で見積もり結果を比較したのが以下の表です。
 
表2 開口部の有無による材料や時間の比較
  必要材料[g] 造形時間[h:m]
開口部有り 7.52 0:55
開口部無し 8.20 0:58
 
上記のように必要な材料は1割弱減りましたが、造形時間はほぼ変わりません。これの理由はよく分かりませんが、体積を減らすことで短縮できた時間と開口部を作ったことで形状が複雑になって増加した時間が互いに相殺し、それで造形時間があまり変わらなかったのだと思っています。
 
それでも若干ですが造形時間は短くなりますし、材料の削減や放熱効果も期待できますので、開口部は設けることにしました。
 

5. 反り対策

3Dプリンターは材料を熱で溶かして層を重ねることで造形していくのですが、時間が経過している下の方ほど冷えるため、材料の上と下で温度差が発生します。さらに造形材料によっては熱によって伸縮するため、温度差が発生すると造形物が下図のように反ります
 
P2280580.jpg
図8 反りが発生した造形物
 
反りを防止するために、造形物の周辺にブリムを付けます。ブリムを付けることで造形物が3Dプリンターの台座に密着するため、反りを抑えられます。
 
P2280766.jpg
図9 ブリムにより反りを抑えた造形物
 
P2280770.jpg
図10 ブリムの有無による反りの比較
 
何度か試した結果、ブリムは0.4mmがちょうど良かったです。
 
このように反りはブリムによって対策も出来ますが、反り対策を行っている3Dプリンターもあります。反りには造形物の温度差が関係しているので、台座や造形物周辺の空気を暖めることで造形物全体を暖めて温度差をなくし、反りの発生を防ぎます。
 

まとめ

このように設計と造形を繰り返して問題点を探しながら、カメラケースを作成しました。5回目の造形でようやく今のカメラケースを作ることが出来ました。また造形しただけで完成ではなく、ブリムを切り取ったり、広がっている下の方を削ったりと手作業も行っています。
簡単に作れるとまではいかないものの、それでも自分が欲しいものを自作できる3Dプリンターは便利ですので、今後も活用していくつもりです。
 
これでカメラケースの作成は終わりです。また何か出来たら、ブログを更新します。
 

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2016年12月13日

Raspberry Piカメラ用ケースの作成 -第2回:3Dプリントの流れ

はじめに

前回は作成したカメラケースを紹介したので、今回は作成過程を説明します。
作成過程の説明は2回に分け、今回は3Dプリントの流れ、次回はカメラ用ケース作成過程を説明します。
 

目次

 

1. 3Dプリンターの仕組み

3Dプリントでは3Dプリンターが作成物を造形します。造形方法は複数あり、安価な家庭用3Dプリンターだと熱溶解積層法が一般的です。
Youtubeに熱溶解積層法で造形している動画があったので、紹介します
 
 
上の動画のように熱溶解積層法では溶かした材料をノズルから出力していき、その層を積み重ねることで造形します。
作成したい3Dモデルの断面図通りに3Dプリンターのノズルを動かすことで、3Dプリントを行うことが出来ます。
 

2. データ作成の流れ

3Dプリントを行うには3Dプリンターのノズルを断面図通りに動かす必要があるわけですが、そのためにはいくつかのデータを作る必要があります。その流れは以下の通りです。
  1. 3D CADで3Dモデルを作る
  2. 作成した3DモデルをSTLファイル(汎用的な3Dデータ)に変換する
  3. STLファイルをGコード(3Dプリンタを動かすためのデータ)に変換する
  4. Gコードを元に3Dプリンターが造形する
 
最初に必要となるのは造形物の3Dモデルです。これを3D CADで作ります。作り方はまた後ほど説明します。
 
2016-12-13 (7).png
図1 3Dモデル
 
3Dモデルの作成を終えたら、その3DモデルをSTLファイルという形式に変換します。
基本的に作成した3Dモデルは作成に使用した3D CADでしか開けません。そこで他のソフトなどとやり取りが出来るように、STLファイルと呼ばれる汎用的な3Dデータに変換します。こうすることで他のソフトと3Dモデルをやり取りすることが出来ます。
 
2016-12-13 (8).png
図2 STLファイル
 
上図のようにSTLファイルは物体を三角形の集合体として表現しています。この三角形の数が多ければ多いほどデータ容量は大きくなりますが、高精細なモデルとなります。
また、STLファイルの時点でSTLビューワーと呼ばれるソフトを使い、そのモデルが現実的かどうかのチェックをします。例えば、厚みが0となっている箇所はないかとか、2つの物体が重なっていないかなどのチェックです。
 
モデルに問題がないのであれば、STLファイルをGコードに変換します。Gコードは3Dプリンターのノズルの動きを表したデータで、変換ソフトをスライサーといいます。
Gコードは動きを表しているので、この軌跡通りに3Dプリンタのヘッドが動きます。特に図4のように真上から見ると、ノズルの動きが分かりやすいと思います。
 
2016-12-13 (11).png
図3 Gコードの3Dモデル
 
2016-12-13 (9).png
図4 Gコードの3Dモデル(真上)
 
あとはこのGコードを3Dプリンターに読み込まれば、造形することができます。
 
3Dプリントを行うためには3Dモデル・STLファイル・Gコードといった3つのデータを作成する必要がありますが、(精度を求めなければ)STLファイルやGコードは変換することで作成できます。ですので、3Dプリントを行うために作成するメインのデータは3Dモデルです。
 

3. 3Dモデルの作り方

3Dモデルを作成するための3D CADは多数ありますが、私はAUTODESK社の123D Designを使いました。
Autodesk社 123D Design
 
この3D CADは無償で使うことが出来ます。また、私はDMM.makeのサイトに使い方の動画が掲載されています。
この記事でも3Dモデルの作成方法を簡単に説明しますが、詳細な使い方はDMM.makeの方を参考にしてください。
DMM.make 動画でマスターする、3Dデータのつくり方 3D CADコース
 
123D Designでは平面図を書き、その平面図を立体にし、それらの立体を組み合わせる、という行程を繰り返して3Dモデルを作成します。
 
まずスケッチと呼ばれる平面図を書きます。
 
2016-12-13 (16).png
図5 スケッチの作成
 
2016-12-13 (2).png
図6 完成したスケッチ
 
次にそのスケッチに対して押し出しという操作を行って立体にします。
 
2016-12-13 (13).png
図7 押し出しの様子
 
押し出しでは立体を作るだけでなく、削除することも出来ます。
 
2016-12-13 (14).png
図8 押し出しによる削除
 
このように123D Designではスケッチで図形を書き、そのスケッチを押しだしで立体にして3Dモデルを作っていきます。
ここでは説明しませんが、押し出しを高さ方向だけでなく回転方向に押し出したり、立体の角を丸くする面取りしたり、他にも様々な操作があります。
 

まとめ

今回は簡単にですが、3Dプリントを行うために必要なデータについてと、3Dモデルを作成する方法について説明しました。
次回は実際にカメラケースを作成した過程などについて説明します。
 

参考資料

  1. "3Dプリンターの原理(個人向け)". MONOWEB:. http://d-engineer.com/3dprint/3dprintergenri1.html, (参照日:2016-12-13)
  2. "ここから始める、3Dプリンタ&モデリング基礎知識". Impress Watch:. http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/column/3dpcontest/620205.html, (参照日:2016-12-13)
  3. "3Dプリンターの基礎". MONOWEB:. http://d-engineer.com/3dprint/3dprintergenri1.html, (参照日:2016-12-13)
 

ラベル:3Dプリント 3D CAD
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2016年12月08日

Raspberry Piカメラ用ケースの作成 -第1回:概要、完成物

はじめに

お久しぶりです。今はRaspberry PiRaspberry Pi公式のカメラモジュールを使って、あれこれ試しています。
 

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公式カメラモジュールは普通の写真が撮れるPiカメラモジュールと赤外線も写せるPiNoIRカメラモジュールの2種類があります。私は夜間にも撮影ができるようPiNoIRカメラモジュールを買いました。図1がそのカメラで撮影した写真です。
 
blog01.jpg
図1 PiNoIRカメラモジュールにて撮影した写真
 
赤外線も写せるので色がおかしくなっていますが、カメラモジュールがあればRaspberry Piで写真を撮ることができます
 
カメラモジュールはRaspberry Pi基板上のコネクタと接続することで使うことができます。
ただ、カメラモジュールは基板がむき出しとなっており、Raspberry Pi公式ケースにカメラモジュールを取り付ける仕組みはありません。ですので、何も工夫をしなければカメラはどこにも固定されていない状態で使うことになります(図2)。
 
P2280857.jpg
図2 カメラモジュールの使用状態 
 
この状態ですとカメラの位置が固定されませんし、基板がむき出しなので破損の恐れもあります。ですので、3Dプリンターを使ってカメラ用ケースを作ります
 

目次

 

1. 概要、完成物

早速ですが、完成したカメラ用ケースが図3と図4、それをRaspberry Pi公式ケースに取り付けた状態が図5と図6です。
 
P2280859-2.jpg
図3 カメラ用ケース表 
 
P2280860-2.jpg
図4 カメラ用ケース裏
 
P2280848-2.jpg
図5 取り付け時1 
 
P2280847-2.jpg
図6 取り付け時2
 
カメラケースはRaspberry Pi公式ケースに取り付けられるよう作りました。
カメラケースを作るに当たって、以下のようなことを決めていました。
  • カメラの動作確認が出来ればよいので、カメラアングルは固定式とする
  • 持ち運びが容易となるように、公式ケースと一体化でき、突起物などは極力なくす
  • カメラケースは容易に着脱可能とし、公式ケースに加工は行わない
 
カメラケースの容易な着脱以外は条件を満たす物を作ることが出来ました。
理想はカメラケースの寸法が公式ケースの開口部にぴったりはまり、道具不要で着脱可能なことでした。ですがカメラケースの寸法を上手く調整できなかったため、結局テープを使って固定しました。
 

2. 部品構成

カメラケースを分解した状態が図7です。
 
P2280854.jpg
図7 カメラケース分解時
 
部品構成は表1の通りです。
 
表1 カメラケース部品一覧
名称 数量 備考
1 本体 1 3Dプリンターにて作成
2 スペーサー 4 3Dプリンターにて作成
3 ネジ 4 既製品 M2 8mm
4 六角ナット 4 既製品 M2
5 レンズ保護用フィルタ 1 既製品 iPhone6用
 
出来れば全ての部品を3Dプリンターで自作したかったのですが、カメラケースとカメラの固定はネジとナットを使いました。今思えば、カメラケースと公式ケースの固定もネジとナットですればよかった気もします。
カメラモジュールのキリ穴が2.2mmなので、ネジはM2のものを使用しました。長さは8mmとしましたが、10mmでもよかった気がします。
 
スペーサーの役割は高さ調整です。カメラモジュールとカメラケース本体の間に挟んで使います(図8)。
 
P2280869.jpg
図8 スペーサー拡大
 
カメラケース本体には六角ナットやフィルタ用のくぼみがあるので、ナットやフィルタはここに入れて使います。こうすることで、カメラケースから飛び出ることはありません(図9)。
 
P2280866.jpg
図9 レンズフィルタ・六角ナット拡大
 

まとめ

3Dプリンターと既製品を組み合わせて、カメラケースを作ることが出来ました。完成度は低いですが、カメラモジュールの動作確認くらいには十分使えます。
次回はカメラケースの設計過程の説明をしようと思います。
 

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