はじめに
今回はカメラケースの3Dモデルを設計し製作した過程を説明します。説明内容は作成するために試行錯誤したことが主ですので、特にこれといったまとめとか結論とかはないです。私が試行錯誤した点などを参考にしていただけたら幸いです。
目次
1. 概要
図1と図2がカメラケースの3Dモデルです。図2にはそれぞれの箇所に名前を付けています。(各名称は私がそう呼んでいるだけなので、一般的な名称と違うかも知れません)
図1 カメラケースの3Dモデルその1
図2 カメラケースの3Dモデルその2
それぞれの箇所には目的があり、目的と箇所をまとめたのが以下の表です。
表1 設計の目的と箇所
目的 | 箇所 | 試行錯誤したこと |
カメラの固定 | レンズ穴、ねじ穴 | 設計と実物のずれの調整、上下での寸法のずれ |
ケースの固定 | バンパー | 固定方法の検討、上下での寸法のずれ |
材料の削減 | 開口部 | 開口部の大きさ |
反り対策 | ブリム | ブリムの厚み |
次からそれぞれの目的について説明します。
2. カメラの固定
カメラの固定にはネジとナットを使っています。
図3 カメラケース表
図4 カメラケース裏
ケースのねじ穴やレンズ穴の位置がカメラと一致するように設計しないといけません。それぞれの穴の位置はカメラの図面を参考にしました。(Raspberry Pi Camera Module)
ただし、カメラのレンズ部分が傾いているせいか、図面の寸法通りの位置にするとカメラの中央が若干ずれました。そのため、図面の寸法から上図の下方向へ0.5mmほどレンズ穴をずらしています。
レンズ穴とねじ穴は2つの図形を組み合わせています。レンズ穴は大小の円、ねじ穴は六角形と円です。
下側の小さい円の穴はケースを貫通(h=3.8mm)させ、上側の大きい円や六角形の穴はレンズフィルタやナットの高さとほぼ同じ(h=2.0mm)にしています。
図5 レンズ穴とねじ穴の拡大
それぞれの穴を作る上で苦労したのが、実際に造形すると設計と実物で寸法がずれることです。さらに寸法のずれは造形物の上下で異なります。
下図は3Dプリンターで造形したスペーサーです。設計上はまっすぐな円筒なのですが、下部の方が広がっています。おそらくですが、3Dプリンターは1層1層重ねて造形するため、下部は重みによって潰れて広がるのだと思います。
図6 スペーサー(下部の方が広がっている)
そのため、下側の穴は実際の寸法より1mm程度大きくして設計しています。これで実際に造形したらちょうどよい大きさとなりました。
一方上の穴は設計と実物のずれがほぼありませんでした。ですので、実際の寸法通りの値で設計しました。
3. ケースの固定
第1回でも説明したとおり、元々はただはめるだけで固定できるようなケースを作るつもりでした。そのための工夫がバンパーです。
理想としてはカメラケース全体の大きさが公式ケースの開口部より若干大きくなる程度に作り、このバンパーに弾力を持たせてカメラケースと公式ケースを押さえつけることで固定するつもりでした。
ですが、先ほど述べたような下の方が潰れて広がるなどカメラケースの寸法がうまく調整できず、さらにバンパーの大きさが小さくあまり弾力もなかったため、この方法は上手くいきませんでした。
ただ、実際に作って思ったのですが、仮にケースの寸法やバンパーの弾力がちょうど良くなるように作れたとしても、この方法ではしっかりと固定できない気がしています。
カメラみたいにねじやナットを使ってケースと固定するように作れば良かったなと思っています。
4. 材料の削減
開口部は体積を減らすために作成しました。またRaspberry Piはそこそこ発熱するので、放熱効果も期待しています。
3Dプリンターは材料を重ねて造形しますので、体積を減らせば必要な材料や造形時間を減らすことが出来ます。材料や時間を減らすことでコストカットにもなりますし、試行錯誤の回数を増やすこともできます。
とはいえ、あまりにも開口部を大きくすると造形物の強度やケースの保護の観点から問題があるので、以下の基準を満たすように作成しました。
図7 開口部の設計基準
スライサーでSTLファイルをGコードへ変換する際に造形に必要な材料や造形時間を見積もることが出来ます。開口部の有無で見積もり結果を比較したのが以下の表です。
表2 開口部の有無による材料や時間の比較
必要材料[g] | 造形時間[h:m] | |
開口部有り | 7.52 | 0:55 |
開口部無し | 8.20 | 0:58 |
上記のように必要な材料は1割弱減りましたが、造形時間はほぼ変わりません。これの理由はよく分かりませんが、体積を減らすことで短縮できた時間と開口部を作ったことで形状が複雑になって増加した時間が互いに相殺し、それで造形時間があまり変わらなかったのだと思っています。
それでも若干ですが造形時間は短くなりますし、材料の削減や放熱効果も期待できますので、開口部は設けることにしました。
5. 反り対策
3Dプリンターは材料を熱で溶かして層を重ねることで造形していくのですが、時間が経過している下の方ほど冷えるため、材料の上と下で温度差が発生します。さらに造形材料によっては熱によって伸縮するため、温度差が発生すると造形物が下図のように反ります。
図8 反りが発生した造形物
反りを防止するために、造形物の周辺にブリムを付けます。ブリムを付けることで造形物が3Dプリンターの台座に密着するため、反りを抑えられます。
図9 ブリムにより反りを抑えた造形物
図10 ブリムの有無による反りの比較
何度か試した結果、ブリムは0.4mmがちょうど良かったです。
このように反りはブリムによって対策も出来ますが、反り対策を行っている3Dプリンターもあります。反りには造形物の温度差が関係しているので、台座や造形物周辺の空気を暖めることで造形物全体を暖めて温度差をなくし、反りの発生を防ぎます。
まとめ
このように設計と造形を繰り返して問題点を探しながら、カメラケースを作成しました。5回目の造形でようやく今のカメラケースを作ることが出来ました。また造形しただけで完成ではなく、ブリムを切り取ったり、広がっている下の方を削ったりと手作業も行っています。
簡単に作れるとまではいかないものの、それでも自分が欲しいものを自作できる3Dプリンターは便利ですので、今後も活用していくつもりです。
これでカメラケースの作成は終わりです。また何か出来たら、ブログを更新します。