2015年12月13日

番外編 -リニアレギュレータ

はじめに

前回は電源について説明し、その中で「直流を直流に変換するDC/DCコンバータがある」と述べました。
DC/DCコンバータにはリニアレギュレータスイッチングレギュレータがあります。今回はリニアレギュレータについて説明します。
(厳密にはDC/DCコンバータ{レギュレータ}はリニアレギュレータもスイッチングレギュレータも含みます。ですがリニアレギュレータはレギュレータ、スイッチングレギュレータはDC/DCコンバータと呼称する場合が多いです)


目次



1. リニアレギュレータとは

降圧と昇圧

リニアレギュレータについて説明する前に降圧と昇圧について説明します。DC/DCコンバータには降圧型昇圧型の2種類があります。
降圧型は電圧を降下させて出力するタイプ(図1)、昇圧型は電圧を上昇させて出力するタイプ(図2)です。

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図1 降圧型DC/DCコンバータ

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図2 昇圧型DC/DCコンバータ

リニアレギュレータは降圧型です。

降圧の仕組み

リニアレギュレータは余分な電気エネルギーを熱エネルギーとして捨てることで降圧しています。
入力電圧5[V]、出力電圧3.3[V]のリニアレギュレータを例に考えます。5[V]の電気エネルギーの内、3.3[V]より下は必要な電気エネルギーですが、それより上は不要な電気エネルギーです(図3)。

dec11_リニアレギュレータ_3.png
図3 リニアレギュレータの電気エネルギー配分1

リニアレギュレータは必要な分の電気エネルギーは電気のまま出力し、不要な分の電気エネルギーは熱エネルギーに変換して捨てます(図4)。

dec11_リニアレギュレータ_4.png
図4 リニアレギュレータの動作

このようにリニアレギュレータは電気エネルギーの一部を熱エネルギーとして捨てることで、降圧を行っています。


2. 利点

リニアレギュレータの利点は主に3つです。
  • 部品代が安い
  • 回路設計が容易
  • 出力する電気が安定している

部品代が安い

リニアレギュレータ(三端子レギュレータ)はスイッチングレギュレータ(DC/DCコンバータ)と比較すると部品代が安いです。
例えば秋月電子通商で「三端子レギュレータ」を検索すると、1個当たり¥20〜¥100程度です。一方、「DCDCコンバータ」で検索すると、1個当たり¥200〜¥500程度です。
このようにリニアレギュレータの価格はスイッチングレギュレータの数分の一程度と、比較的安価です。

回路設計が容易

リニアレギュレータの中でもよく使われるのが三端子レギュレータです。三端子レギュレータの端子は入力・出力・GNDの3つです(図5)。

dec13_三端子レギュレータ.jpg

図5 三端子レギュレータ(秋月電子通商 通販コード:I-08678)

三端子レギュレータの回路は基本的に入力側と出力側にコンデンサを1つずつ付けるだけです(図6)。あとは入力側に電圧を入力すれば、出力側から電圧が出力されます。

dec11_リニアレギュレータ_5.png
図6 三端子レギュレータ回路

三端子レギュレータ自身を含めても部品点数は3点と少ないため、回路設計が容易です。
(上記の例は出力電圧が固定の場合です。3Gカメラで使用した三端子レギュレータは出力電圧が可変ですので、電圧設定用の抵抗器が必要です)

出力する電気が安定している

リニアレギュレータは不要な電気を熱として捨てますが、捨てることで出力する電気が安定(=平滑化)します。
リニアレギュレータに入力する電圧が不安定な場合でも不安定な部分は熱として捨てられるので、出力されるのは安定した部分の電気です(図7)。

dec11_リニアレギュレータ_6.png

図7 リニアレギュレータによる平滑化


3. 欠点

リニアレギュレータの欠点は主に2つです。
  • エネルギーの効率が悪い
  • 放熱の設計が必要

エネルギーの効率が悪い

リニアレギュレータは不要な電気エネルギーを熱エネルギーとして捨てるため、捨てる分のエネルギーが無駄です(図8)。特に入力電圧と出力電圧の差(入出力電圧差)が大きいほど、効率が悪くなります。

dec11_リニアレギュレータ_7.png
図8 リニアレギュレータの電気エネルギー配分2

電気エネルギーの量は電力、ワット[W]で表せます。電力をP[W]、電圧をV[V]、電流をI[A]とすると、電力の計算式は下記の通りです。

$P = V \times I $

例えば、入力電圧5[V]、出力電圧3.3[V]、出力電流50[mA]の場合を考えます。(入力電流=出力電流です)入力電力をPin[W]、必要な電力(出力電力)をPout[W]、不要な電力をPloss[W]として計算すると以下のようになります(図9)。

$ P_{in} = 5 \times 50 = 250[mW] $

$ P_{out} = 3.3 \times 50 = 165[mW] $

$ P_{loss} = ( 5 - 3.3 ) \times 50 = 85[mW] $

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図9 リニアレギュレータの電力計算1

この場合、入力電力に対する不要な電力の比率は 85/250 = 0.340 です。

次に入力電圧12[V]の場合を計算します。式などは省略しますが、Pin=600[mW]、Pout=165[mW]、Ploss=435[mW]となり、不要な電力の比率は0.725です(図10)。

dec11_リニアレギュレータ_9-2.png
図10 リニアレギュレータの電力計算2

入力電圧が5[V]から12[V]になることで、無駄な電力の比率は0.340から0.725に上昇しました。このようにリニアレギュレータでは入出力電圧差が大きいほど効率が悪くなります

放熱の設計が必要

リニアレギュレータは電気エネルギーを熱に変換して捨てているため、熱が発生します。発生する熱が多すぎると部品や回路などの温度が上がり続け、最悪の場合は部品や回路が壊れます
そのため、リニアレギュレータを使う場合は電力に合わせた放熱設計が必要です。主な放熱の方法はリニアレギュレータに放熱板などを取り付けることです(図11)。

dec13_放熱板.JPG
図11 放熱板(秋月電子通商 通販コード:P05049)

発生する熱は捨てる電力の量で決まります。入出力電圧差や出力電流が大きいと捨てる電力が増えるので、より多くの熱を放熱できる設計をしなければなりません。


まとめ

以上、リニアレギュレータについて説明しました。説明したことをまとめると以下のようになります。
  • リニアレギュレータは降圧型のDC/DCコンバータ
  • 不要な電気エネルギーを熱エネルギーとして捨てることで降圧している
  • 利点は安い、回路設計が容易、出力電圧が安定
  • 欠点は効率が悪い、放熱設計が必要

欠点はあるものの価格や回路設計などの利点もありますので、消費電流が数十[mA]程度の場合は三端子レギュレータが便利です。
次回はもう一つのDC-DCコンバータ、スイッチングレギュレータについて説明します。


参考資料

  1. 著書名:CQ出版社. 書名:トランジスタ技術2013年6月号. 出版社:CQ出版社, 出版年:2013, 参照頁(pp.115-116)
  2. 作者名:ローム株式会社. "リニアレギュレータの動作原理". サイト名:Tech Web. http://micro.rohm.com/jp/techweb/knowledge/dcdc/s-dcdc/01-s-dcdc/72, (参照日:2015-12-13)


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posted by ました at 17:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 電子工作の知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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